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タイトル 学校司書の放課後カフェ 本と子どもと学びの風景 著者 八洲学習院大学 生涯学習学部教授 野口久美子

第7回 学校司書、バレリーナの卵に感動

 こんにちは。暑さも和らぎ、秋の風が心地よい季節となりました。秋といえば、「読書の秋」ですね。学校図書館では10月から11月にかけて、読書週間や読書月間などを設けて読書に関するイベントを行うことが多く、放課後カフェに集まる学校司書たちもその準備で忙しいようです。そんな最中に開かれたカフェの様子をお届けします。

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しおん かなり昔のエピソードになるけど、話していいかな? 3年生のサクラさんという女の子が6月ぐらいに図書館に来て、『ドン・キホーテ』を借りたいって言ってきたの。で、所蔵があるか検索をかけてみたんだけど、いろんな名作のあらすじを集めたような本しかなくて、「今、学校にはこういうのしかないんだけど」って言ったら、やっぱり完全版を読みたいってなって。予算に余裕があったから、司書教諭の先生に買ってもらうようにお願いしときますねっていうことになったんです。

あおい サクラさん、3年生でしょ?『ドン・キホーテ』が読みたいだなんて、すごいね。

しおん 彼女、実はバレエを習ってて。こないだ発表会で「ドン・キホーテ」を踊ったんだけれども、うまくできなかったから、『ドン・キホーテ』の物語を知りたいってことだったらしくて。

あかり もう一回聞くけど、3年生になったばっかりだよね?(驚き)

しおん そう、3年生で。これこれこういうことでリクエストがあって...って司書教諭の先生に相談したらOKが出たから、発注の検索をかけたら、岩波少年文庫の中にあったんだけど、中学生向けかなぁって感じで。それ以外にクラシックバレエの人気演目を小学生向けにストーリー化したシリーズがあるって分かって。そちらはかわいらしいイラストも素敵で、さて、どうしようかなと。岩波少年文庫の『ドン・キホーテ』を買っちゃうよりも、小学生向けのお話、バレリーナのお姫様みたいな感じの本を買う方が他にも興味を持つ子がいるんじゃないかなと思って、そちらのシリーズから2冊注文してみたんだけど入荷しないまま夏休みを迎えて、やっと9月になって「品切れです」って返事がきて。もう一度司書教諭に相談して、「どうしてもっていうなら、子どものリクエストを聞いてあげてください」って言ってくれたから、岩波少年文庫の『ドン・キホーテ』を再発注したの。サクラさんには「申し訳ないけど、もうちょっと待ってもらえますか?」ってお願いして。

あおい そうなると、「もういいです」ってなることも多いよね。

しおん それが「もう自分で買っちゃいました」っていうこともなく、ずっと待っててくれて。図書館に来た時にサクラさんが読んでいる本を見ても、漫画とかじゃなくて物語を読んでたから、岩波少年文庫でも読めるかもしれないな、と。で、12月、もうすぐ冬休みって頃になってようやく本が到着したんだけど、タイミングが悪いことにその時に私、体調を崩して学校をお休みしちゃって。教頭先生に「3年生のサクラさんが『ドン・キホーテ』を借りにくるので、ブックトラックに置いておいてください」ってお願いしたけど、結局、彼女の手には渡っていなくて。で、冬休みが明けて、いの一番にサクラさんのところに行って、「届きましたよ!図書館に借りに来てくださいね」って伝えたら、お昼休みに借りに来てくれたの。

あかり 長かったね~!でも、渡せてよかったね。

しおん 読めるかなぁ、どうかなぁという心配もありつつ。本来であれば、貸出は1人1冊、1週間っていうルールなんだけど、岩波少年文庫で、読むのが結構大変かなぁって思ったから、1週間経っても督促はせずにとにかく彼女が本を返却しに来るのを待って。今まで散々待たせていたしね。で、2月になって、蔵書点検で図書館を閉めるので本を借りている人は返してくださいって、担任の先生方から呼びかけをしてもらったの。そうしたら、サクラさんが来て。

あおい どうだった?どうだった?

しおん 満面の笑みで「面白かった~!楽しかった~!」って来てくれたの!

あかり うわぁ~!読めたんだ。すごい!

しおん でね、続きがあって。

あおい 気になる、気になる。

しおん 何かな?って思ったら、「私、引っ越しするんです」って。お父さんの仕事の都合ということだったけど、バレエも引き続き習えるところに引っ越しするんですって。

あおい えっ...。

しおん そうしたらね、「本も読みます!」って言ってくれて。

あかり それは泣ける...!

しおん ちょうど冬休みに NHK の「プロフェッショナル 仕事の流儀」っていう番組で、フランスのオペラ座で日本人初のエトワールになった人の話を取り上げてて、サクラさんのことを思い出しながら見入っちゃって。だから、「実はね、この間テレビでね、フランスのオペラ座ってところで日本人で初めてエトワールになった方がいて。それ見ながらね、サクラさんのことを思い出したの」って言ったら、「頑張ります。でも、本も読みます」って。

あかり 公共図書館だと、多分こういうことってほとんどないよね。学校司書冥利に尽きるね。自分で買ったり、他の図書館で借りたりすることもなく、自分でリクエストした本だからってずっと待っててくれたのも感動だね。

しおん うん。ギリギリ間に合って、本当に良かった。

あおい 待てば待つほど楽しみになったっていうのもあるかもしれないよね。バレエを上手に踊るためには技術を高めるだけでなく、演目を理解しなければいけないと思ったっていうところがすごいね。バレリーナとして、本気で高みを目指しているんだろうね。

あかり しおんさんとの信頼関係もあったんだろうなって思った。しおんさんが一対一の関係を大事にして、丁寧に向き合ってあげたのが嬉しかったんだろうなって想像できる。

しおん そうね。普段は大勢の子どもたちを相手にしているけど、やっぱり何かあった時はね、一対一で向き合うって大事だよね。学校司書を続けている限り、いや、いつか辞めた後もずっとサクラさんとのことは忘れないだろうな。


〈著者プロフィール〉

八洲学園大学生涯学習学部教授、放送大学客員教授。
読書教育、学校図書館専門職のライフストーリーを研究。
図書館で働きたい・図書館をもっと素敵な場にしたいという思いを持つ学生さんを通信制大学にて応援中。
2025年に郵研社より、『蛾のおっさんが聞く 学校図書館のもやもや35』を共著で出版。

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