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タイトル 司書の私書箱

No.23「図書紹介とお詫びの手紙」

挿絵
※挿絵はクリックで拡大します。

 年が明けて、「おめでとう」「よろしく」の声が飛び交う中に、大変な災害・事故が起こってしまいました。お亡くなりになった方の数は3桁に上り、その何倍もの人が今なお悲嘆に暮れているのではないかと思います。自分が東日本大震災で被災したときに、色んなことを考え、色んな方を見た記憶がよみがえり、「今回は自分とその近しい人でなくてよかった」と「自分だったらまだよかったのに」の両方の気持ちが今、自分の中にあるのが正直なところです。醜い心はどうしたらよいのでしょう。何を思ったところで途切れた道路がつながるわけもなし、ただただ被災された方々の今日が昨日より良くなることを祈るばかりです。

 先月の「本を紹介すること」のイベント、お疲れ様でした。テーマが「人はなぜ本を紹介するのか」。私の答えは「つなげたいと思うから」かなあ…とイベント中、ぼんやり思っていました。昔と今、既知と未知、一冊の本に出会う前と後、「残す」ことへの協力、自分と他者。人と人。
 「求められるから」という理由も思いついたのですが、いや商業的に図書館員の本紹介なんてそんなに求められてないんだよ(数字をもっていないから)と暗に言われてみると、社会の中での価値と役割の問題が現れ、即座に「うわ、なんか大変そう」と目の前に諦めの立て札が立ちまして(本当はそれでもちゃんと考えないとなんですが)。
 やはりここは大林さんと私のトークらしい感じにしたいなあとランガナタンの五法則を引っ張り出し、“Every reader his or her book.” そうだ!大事な一冊との出会い!図書館員なら、司書なら「つなげる」だろう!と。個人的に、紹介文を書くときは商業的な視点でマスに向けた販売(読書)推進ではなく、1(本)対1(読者)の意識が強いということも関係しているかもしれません。「この本、こんな良いところがあるんですよね。もしよかったら手に取ってみませんか?」
 …なんてことを考えて、その時はピントがあった気でいたのですが、今こうして書面に落としてみると大したことではないですね。やはり作家さんはすごいなあ。

 さて、今日は大林さんにお詫びしたいことがありました。前回の私の手紙で、東照宮の文章を書いた際、大林さんを茶化すようなことを書いてしまった気がします(手紙を出した後、書いた文面を自分で読めないというのは大変恐ろしいことです)。失礼いたしました。
 こうしてわざわざ書面を使って無礼をお詫びするなら投函する前に十分推敲しておくべきだろうというお叱り(妄想です)はごもっともです。
 「謝るくらいなら最初からやるな!」私の中の私も強く𠮟責してきます。この「謝るくらいなら最初からやるな!」は、たまに私たちの社会でも耳にする言葉です。…しかし、これはどうなのでしょうか。書きながらムムムとなったので、恐縮ですが私が大林さんに謝る流れはひとまず棚に上げておいて考えてみました。
 引っかかるのはこの言葉、言論封殺型の「半年ROMってろ(本連載手紙№19~21参照)」よろしく、失敗に対して極めて不寛容だと感じられる点です。コンテクスト的に、失敗しても謝るなという意味ではないでしょうから、乱暴に言い換えれば「失敗するな」になるのだろうと思います。
 行政現場や図書館でも、新しい取り組みについて「一度始めたら止めたり変更するのが難しい」という声を主に責任のある立場の人から聞いたりします。トライアル期間を設け、影響と反響を分析し、適切な形にブラッシュアップしたうえで、必要であればデメリット表示をつけて出す。さして珍しくもないマーケティング手法(…というのもはばかられるほど)ですが、「失敗するなら(謝るなら)最初からやるな!」という意識では、始めの一歩に莫大なエネルギーがかかってしまう。…というか失敗の責任をとれない立場の人には、何かを始めることすら許されないという事態にもなってしまうのではないかと思うと、随分と強い言葉で。
 先にランガナタンの五法則を出したからというわけではないのですが、図書館は成長する有機体であると。生物は環境に適応し、平衡状態を目指して進化と退化を繰り返す。自然環境だと環境の変化が常にあるので、適応のために変化せざるを得ない(なんなら追いつかない生物は淘汰される)。自身の変化を拒んで環境の変化から目を背け、共生関係(場合によっては寄生?)にある別生物に守ってもらう対象を「成長する有機体」とはたして言えるのかどうか。先述したイベントに参加して考えたことのもう一つでした。
 己のお詫びを棚に上げて、つらつらと書面を浪費してしまい申し訳ありません。日々の業務でも、災害からの復旧復興でも、自分が何ができるのかをよく考え行動に移したいと思います。
 それでは、また。(高)

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