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タイトル 司書の私書箱

No.21「クラシックと建築の手紙」

挿絵
※挿絵はクリックで拡大します。

 こんにちは。
 このお手紙を書いている頃、ちょうど東北は紅葉の真っ盛りです。職場近くのイタヤカエデがお気に入りなのですが、15年くらい前に見た滋賀県永源寺の紅葉は圧巻でした。あんなに心動かされる赤色は後にも先にも初めてで。秋の美しさに思いを巡らす度に瞼に浮かんできます。栃木もこの時期、きっときれいなのでしょうね。

 日光東照宮を楽しまれたとのこと、ぜひ詳しく伺いたいものです。権現造の社殿、圧倒的な煌びやかさの陽明門、神仏習合の思想が感じられる空間…と、浅学ですが私も興味深い時間を過ごした思い出があります。
 図書館や博物館、美術館などの公共施設も、歴史のある建物、時代の流行りのタイプの建物、美術的な趣のある建物…と多様になってきましたが、寺社建築の奥深さは他を寄せ付けないものがあると感じています。いただいたお手紙に「クラシカル」の文字がありましたが、文学も音楽も建築もクラシックから学ぶという考えは言うまでもなく大切なことでしょう。「半年ROMってろ」もおっしゃる通り、言論封殺というよりは「Standing on the shoulders of giants.」の精神を現代語訳したもの(ちょっと無理がありますか!)な感じで受け取っていました。そう考えると、クラシックがクラシックになるまで時代に評価され続けて生き抜いてきた価値…というものは、理解に一定のクオリティを求められるものとも言えるのかもしれません。東照宮の見え方、捉え方が中学生の時と変わったのも、然るべき経験を積まれた証明ということで、さすが大林さん(よいしょ!)。
 図書館員は利用者さんにおすすめ本の紹介を求められることも多いと思いますが、その時にクラシックを薦めがちーってあるあるじゃないですか?それこそ『ハムレット』のカードが切られているのを何回も見たことがあります。もちろん『ハムレット』は素晴らしい戯曲であり、文学であることに私も異論はないのですが、「本物に触れる」ことと「今のその人に合っている」ということを天秤にかけて、地元の寺社仏閣の楽しみ方を話してみるというやり方も一つなのではないかなあ…と思ってしまう部分もあり。でも!ビギナー向けにも「これは良い」と「いやこれはちょっと…」があるのは確かで!それを判断する知識や経験、人を見る観察眼や想像力を最大限に発揮して、その人に本を紹介する…ようなことは教育思考に寄りすぎた考えなのでしょうか。クラシックを感じる力を育てたい…とまで言ったら傲慢に聞こえますね。

 先の東照宮の話で「建築」の文字をみて思い出したのですが、自宅に小屋を建てることになり、先日、設計士と会った時の話をひとつ。
 ひょんなことから「設計士に住宅建築を依頼するということにハードルを感じている人が多い(ので発注者に富裕層が多い)」という話題になり、「設計事務所・工務店・ハウスメーカーの違いとかメリットデメリットを学んでもらえる機会がほしい。田舎はまだまだ持家信仰があるから、若い人に自分の家を建てたい人が多い。コストカットの方法なんて設計士はいくらでも持ってる。その人その人で家に求めるものが違うし、生きる意味みたいなものをちゃんと考えてみてほしい。どこで建てたか知り合いに聞くのも良いけど、ちゃんと学ぶことも大きな買い物をして後悔しないために大事だと思う」という嘆きを聞いて、図書館でも似たようなハードル(思考バイアス)があるなあと感じ、「学び」それなら生涯学習施設の出番じゃないか!と意気込み、お酒が進みました。
 勝手な印象ですが、「住まう」という人間の営みの大きな部分を突き詰める建築士さんには文学的な感性が豊かな方も多い気がします。東照宮のようなクラシカルな建築を一緒に見て回って、何が見えているのか勉強させてもらうのも楽しそうだなーなんて思いました。

 今年は秋が無いなんて言われるくらい急激に冷え込み始めました。季節の変わり目、くれぐれもご自愛ください。(高)

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