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タイトル 司書の私書箱

No.5「前置きと枕の手紙(2)」

 こんにちは。
 住んでいるところからちょっと離れた町の喫茶店でこの手紙を書いています。店内には私一人。のんびりさせてもらっています。

 前書きが魅力的な作家さんでケストナー!確かに!
 私は「前書き」が、一冊の本の中でちゃんと座布団に座っているなーと思ったのが『点子ちゃんとアントン』でした。
 前置きとはちょっと違うのですが、巻頭だったり章の始めだったりに句や詩を引用する「エピグラフ」。私、けっこう、見つけるとウキウキします。有名どころだと、ヘミングウェイの『誰がために鐘は鳴る』に引用された、ジョン・ダンの『瞑想録第17番』とかが好きです。今の自分に小説とエピグラフのどっちが残ってる?と考えると、断然、詩が強いんですよね。
 覚えている限りですが(正確でもないです)、私が読んできた本だと、エピグラフ、なぜかキルケゴールが多かった気がします。心にひっかかった回数が多くて覚えているだけなのでしょうか…。自分自身の読書の「今まで」のことは、恋愛のそれ以上によくわかりません。
 最近読んだ本(といってもその本の出版は10年くらい前ですが)で、面白かったエピグラフは『謎の独立国家 ソマリランド』(高野秀行著 本の雑誌社 2013)のものです。ザ・ブルーハーツの『情熱の薔薇』の歌詞と、ガンジーの言葉の2本が引用されているのですが、本編とのマリアージュもさることながら、ブルーハーツとガンジーの共演!?と、そのチョイスに胸が熱くなってしまいました。甲本ヒロトさんとガンジー、ちょっと対談とか見てみたくないですか?もちろん往復書簡でもいいです。

挿絵1
※挿絵はクリックで拡大します。

 前回のお手紙の広辞苑を枕にするお話(ちょっと違う)、ご返杯で私からは『枕中記』を。
 『枕中記』、中国は唐の時代の伝奇小説で、「邯鄲の夢」の元になった故事ですが、旅の少年盧生に道士呂翁が枕を貸し、それを使って眠った盧生が、短い夢の中で人生の栄華を経験する…というあらすじです(自分の要約力の低さに涙がでました)。
 作中で、呂翁が盧生に勧めた枕は青磁(焼き物)でした。枕石漱流の石の枕も大概だと思いますが、焼き物というのも中々。広辞苑の方がまだ寝やすそうですね。
 盛夏の砌、寝苦しい夜は氷水を入れた水枕で乗り切ろうと思います。茶色で、口を金具で止めるアイツ。ノスタルジックラブ。

 余談ですが、我が家では親に「本と枕は踏むな跨ぐな」と言われて育ちました。剣道を始めてからはそれに刀(竹刀、木刀、もちろん本物の刀も)も加わるのですが、大人になってから考えると、自分の親ながら、なかなか含みのある教育だなあ…などと思ったりもしました。(その他には「転ぶときは人が見ているところで転べ」なんていうのもあります。芸人か。)
 
 前回頂いたお手紙に書いてあった「焚書」のお話を考えていたところ、つい先日、ニュースで、悲惨な事件を知りました。
 「暴力はいけない。議論によって解決すべきだ」という正論を振りかざしても、すでに現実はその正論の世界の外側で価値観(と行動)が交わされることが当たり前になっていて。
 なんとかしたいと思う人達が、現実をもっと広い塀で囲おうとするのも、「被害者も一人の人間」と静かな目を持とうとするのも、自由の意味を再考するのも、いずれにしても意味のある事なのでしょう。想像も思考も行動も大事な行為だと思います。
 色んな考えが飛び交う中、本が目に見えて焼かれることはなくても、「焚書」という言葉の火種はあちこちに転がっているなあと、なので火の元にはくれぐれも注意しようと、先日のニュースと頂いたお手紙を読みながら考えたのでした。

 夏の入道雲も良いものですが、個人的には冬が好きです。暑さ対策に招涼の珠が欲しいので、夏休みの工作でドラゴンレーダーを作って効率的に探したいと思います。西日本にありそうなときはお声かけいたしますので、その時はご協力いただければ幸いです。(高)

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