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タイトル 司書の私書箱

No.2「CDプレイヤーと鍋の手紙」

「私はROCKを聴いています。毎日レコード3枚」
 リクエストにお応えして、そんなふうに書きだしたいと思ったのです。しかしレコードプレイヤーが動かなくなって数十年。CDプレイヤーすらしばらく前に故障したまま、買い換えられずにいます。もちろんROCKを聴かずに生きてはいけませんので(嘘です、いやあながち嘘でもないのか)PCや、それこそスマートフォンで聴いているわけです。
 とは言え、やはりCDプレイヤーが欲しい。そう思い、探しているのですが、インターネット上のお薦め情報は「配信サービスが主流となった今日、CDプレイヤーといえば『年配の方の道楽』と思われがちですが…」とか「インターネットで音楽がダウンロードできる昨今、CDプレイヤーはもはや『過去の遺物』と思われる方がほとんどでしょうけれど…」とか、いちいちめんどくさい前置きを読まないと肝心のCDプレイヤーの情報にたどり着けないのです。その前置き、必要ですかね?せっかくお薦めしてくれるんなら、人を年寄り扱いなんかしてないで、さっさとお薦めしてくれればいいじゃないですか。
 
 ええ、わかってます。この短気さが年配者ってことなんでしょう。おかしいなあ、以前はこんなに怒りっぽくなかったのに。そうだ、この知見を仕事に活かしましょう。レファレンスカウンターに入ったときには(年配の司書ですが、レファレンス業務には従事しているのです、今のところ)「この字の小ささは年配の方にはきついかもしれませんが…」とか「もしかしたらインターネットの情報は信じられないかもしれませんが…」とか不要な前置きはせずに、すっきりとスマートなレファレンスサービスを行いましょう。そうそう、スマートフォンのような司書って話でした。
 
 マルチファンクショナル、マルチタスクの時代です。「もてはやされる時代です」と書こうとして、思いとどまりました。なんだか僻みっぽくていけない。「重用される時代です」もちょっと違うかな、「重」くないんですよね。むしろ軽い。軽い、速い、たくさんの仕事を同時に、正確にこなす。スマートフォンのような司書。悪くないです。悪いわけないんですけど、というところです。

 図書館もマルチファンクショナルな存在ですよね。「本を貸すだけの場所じゃない」。よく聞く言葉だし、自分でもよく言っています。「図書館であれもできるしこれもできる」。それは正しいんですけど、正しすぎちゃって、ちょっと疲れるというところも正直あるんですよね。ときには単機能の図書館もいいんじゃないかな、とか。

 単機能の家電というと炊飯器を思いつきます。ご飯を炊くだけの電化製品。性能は向上し続けているだろうし、いろいろと応用はできるかもしれないけど、基本的にはご飯を炊くものです。それであの大きさ。あの価格。それでも支持され続けるのには、やはり理由があるんでしょう。単機能司書や単機能図書館も、見習うべきところがあるかもしれません。

挿絵1
※挿絵はクリックで拡大します。

 いっぽう、多機能な調理器具代表(?)は鍋でしょうか。ご飯も炊けるし、煮物炒め物もできる。汁物もつくれるし、野菜や麺を茹でることもできます。「キッチンのスマートフォン」と言っても差し支えないようなマルチファンクショナルぶりです。そして壊れにくい。一生つきあってくれる鍋もありそうです。多機能、それでいてシンプル。こんな司書にも憧れますね。鍋のような司書(あまり褒めているように見えませんか…)。
 スマートフォン、炊飯器、鍋、CDプレイヤー、その他いろいろ。それぞれのよさが発揮できるような図書館であれば(とってつけたような展開)、手紙のような司書にも活躍の場があるでしょう。

 手紙のことを書こうと思っていたのに、なぜかこんなことになってしまっています。自分ではそれも悪くないと思っているんですが、いかがでしょうか。「それも悪くない」と暮らしていけるといいな、と。
「ひさしぶりにラーメン以外のものを食べました。これも悪くないですね」そんなお返事を、いや、こういう縛りはやめましょうか(笑)。自由なお返事をお待ちしています。(大)

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