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タイトル 司書の私書箱

No.25「公共事業と読書環境の手紙」

挿絵
※挿絵はクリックで拡大します。

 完璧な村上春樹のものまねに挑戦している大林さんを見られる場所はどこですか?

 さて、落ち着くところ。
 書き物をするのに、どこで便箋を広げようか、どこでパソコンをポチポチやろうかと考えます。集中できて、長時間いても怒られない場所。自宅、喫茶店、図書館、新幹線、コワーキングスペース…。私は書き始めてしまえば周りは気にならなくなる性分でして、書き物ごとにあっちに行ったりこっちに行ったりと漂いながらそれなりに楽しんでいます(このお手紙は、ホームセンターの立体駐車場で書いています)。

 コワーキングスペースとしての図書館…なんていうのも、話の切り口としてありますよね。昨今は新しい図書館を計画するときの要素になったりもしているのでしょうか。

  • 電源コンセント
  • 便利グッズ(ノイズキャンセリングヘッドホンやタイマー)
  • 無料wi-fi
  • 個人席/電話ブース
  • 打合せスペース
  • 飲みものの提供(ティーディスペンサー等)
  • web会議などオンラインコミュニケーションの環境
  • 情報共有の場(チラシ置き場、掲示板等)

 図書館も複合化の文脈では、施設として「役立つ」場所でなくてはいけなくなってしまって、現実的に役立つビジネスサポートなんかを考えると「仕事ができる環境整備」は当然の流れとも思います。まあ、『それ図書館でやるの?』という話ではありますけど、地域全体の視点で考えると「仕事や勉強ができる場所がない」とか「この地域って不便だよね…」「ここに住んでると生活効率が落ちる」とか思われるのはちょっと困る。まあ、近くにコワーキングスペースがある地域や、民間企業が地域のニーズにしっかり対応してくれている場所に住んでいる人はいいのですが、田舎とかではまだまだそういう環境整備が進んでいないところが多いのが現状で。
 「住んでいる人は実は必要としているけど、人が少なくて採算が取れないから民間サービスが生まれない」そんな時こそ、地域のみんなで力を合わせてサービスをつくる、つまり公共事業の出番…というのも一つの理屈かなあなんて思ったりして(もちろん民業圧迫の影響を考えて問題がなければですが)。
 そうすると新しくできる文化施設に設備を入れようか…というのも地域にとっては良い面もあるのかもしれません。

 ところで、仕事をするときの環境ニーズはよく聞きますが、読書をするときの環境ニーズってあまり耳にしないような気がします。せいぜいカフェ・喫茶店の宣伝などで、「―静かに本を読む充実したひととき―」のようなものを見るくらい。
 「読書環境は個人個人で違うからあえてサービスとして提供するものではない」本当に?
 なんなら本を読むのは、パーソナルな自宅・自室か静かな図書館ででも読めば?くらいの温度感があるような気もします。
 「図書館は本だけでなく!トータルな情報収集を前提としt…」私は本が好きです。
 レッツシンキン 読書をするときの環境ニーズ

  • 読みたくなる本がたくさん並んでいて、自由にアクセスできる本棚
  • 快適な温度湿度管理
  • 他人の視線が気にならない読書席(椅子)
  • 読書灯
  • 飲み物の提供
  • 書き物のできるちょっとしたテーブル
  • 長時間座っても疲れない椅子・ソファ
  • 栞、リーディングトラッカー、ルーペなどの補助グッズ
  • 固まった身体をほぐすための軽運動ができるスペース
    • →ぶら下がり健康機的なバー
    • →バスケットゴール(3on3用)
    • →ストレッチ用マットスペース
    • →ルームランナー
  • 外気にふれられる場所(ピロティ・テラス的な)
  • 大きめの木

 イエスイエス、読書支援。
 「こんな場所があったら本を読みに行くわ」
 たくさんの人が来てくれて、本についてのさまざまな要望があがって、たくさん課題が見つかれば、魅力的な本棚も司書の手が入ってもっと魅力的になっていく。「こんなに使われているのなら」という評価にもつながる。本を読んで何かを考えたり学んだりして、時が経って「この場所がここにあって良かった」と思う人が出てくる。そんな人の中から「この場所を守りたい」「時代に合った形でもっと良くしたい」という声があがる。時間と人が思いをつなぎ、地域を継続させていく。
 「持続可能な社会」にはそもそも「持続したい」と思う主体的な意思が必要で、その思いはきっと己が体験した経験から生まれてくるものなのではないでしょうか。だとすると、「持続してきた社会には感動があった」みたいなもののほうがハートフルで良いなあ…なんて思ってしまうんですよね。
 立体駐車場の3階から見える景色がオレンジ色になってきました。このお手紙が着くころには薄桃色の温かい風が吹いていてほしいところですが、さて、栃木はいかがでしょう。盃に花びらを浮かべて季節を楽しみたいところです。(高)

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