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タイトル 司書の私書箱

No.39「金緑と垂れ幕の手紙」

挿絵
※挿絵はクリックで拡大します。

 あれよあれよと言う間にゴールデンウィークも終わり、庭の雑草がパワフルになってきた今日この頃です。お変わりありませんか。
 ゴールデンウィークといえば、5月4日は「みどりの日」で祝日になっているわけですが、大学時代、突如4月29日からゴールデン入りしてきた「みどりの日」に対して、私はとても違和感を持っていました。ええ、色の統一感は無視ですか。
 で、社会人になってもこの時の違和感を引っ張り続けていたのですが(人混み嫌いの性分がゴールデンウィーク自体を面白くなく見ていたからかもしれません)、而立を迎えて少ししたくらいの年齢で徳冨蘆花の『自然と人生』(岩波書店 1900)※1を読んで、一気に見方が変わりまして。同書収録の『新樹』という随筆です。ちょっと一部分引用してみます。

靜かに觀れば、一庭の新樹日を受けて日を透し、金緑色に榮えて、宛ながら一天の日光を庭中に集めたるの感あり。其の枝々葉々上には水の如き碧の空に映り、地にはおの/\※2紫の影を落せるを見よ。

 金緑色なんて色があるのか!と新たな知識を喜びつつ、この美しい文章がくすんだゴールデンウィークとご都合主義のみどりの日に新緑の光を振りまいたような感覚を覚え、それ以来、みどりの日はオッケーになりました。なので、私は変わりなく過ごしております。

 マルクスの「命がけの跳躍」がいらっしゃいましたか。「モノに価値があるかどうかは自分ではなく相手が決める」とのこと。オーデンの「見る前に跳べ」は個人の内面へ矢印を向けていて、マルクスとの対比が見て取れます。跳んだオーデンがマルクスに「クソくらえだ!」とライダーキックをかます画を想像してしまいました。
 「書く」推進委員(?)的には、社会相対的価値を考えてしまうと筆は重くなってしまうのかなと。とりあえず、できたものの価値を考える前に、まずモノを作ってみようの段階といいますか。なんですが、その段階は程度の低い状態なのかといわれると、それはそれで天邪鬼が顔をだしてくる。「思っていることを表現してみたい!…上手に書けなかったけど、なんとか書き上げられた」が「適当に書いてみた→あら売れちゃった」に笑われてほしくない根性といいますか、甘々青二才メンタリティーといいますか。
 大林さんの「書かない=考えられない=生きていけない」を読んで、まさに天を見上げるタレントだと思いました。自分のことを見つめなおせば、「考える」と「書く」がつながっているのは「あるなぁ」なのですが、私には書くことは必ずしも人生に必要ないことなのかもしれない。もしかしたら、考えること(思考遊び)も同じかも(今の自分とは全く違ったキャラクターになりそうですが)。でも実際は、考えて書いてみるという表現をしていたら 思いのほか生活が楽しく思えるようになった…というのは誇張のない本心だと思います。
 そこに「読む」の要素を入れるとすると…いつかどこかに書いたことがある文章ですが、「語る言葉を内に持つために読む」が自分自身ではしっくりくる。そうすると「読む→(考える・語る)→書く」の順番になって…あれえ?「見る前に跳べ」はいずこへ?
 まあ、自分の中に語りたいものがあったうえで、読むことで考察や表現のアウトプットの質があがるということでしょうか。「ために」とか、なんか「書く」優位的な考え方ですね。「考える→書く→読む」の順番でいたいなあと頭では思っているんですけどね。なかなかうまくいきません。

 さて、「飛躍」といえば、学生生活の部活動(話題も飛躍!)。運動部だったので、大会の時に各学校が体育館にかける垂れ幕のイメージがあります。垂れ幕といえば、選手をエンパワーメントするための言葉だったり、その学校(の部活)のブランディングだったりだと思うのですが、母校の垂れ幕を思い出せば「気剣体一致」「不撓不屈」と、何やら勇ましい感じでした。
 いや、なんとなく覚えているもので。同じような感じのものだと、校歌とかがあげられるでしょうか。集団主義の典型例のようなものですが、それが嫌なら教育テレビの番組で使われてた歌とか。年代ホイホイ。私は大貫妙子さんの「メトロポリタン美術館」と諫山実生さんの「月のワルツ」が好きでした。
 便りの最後に。最近、小学生に「あ!移動図書館!保育園のとき借りてた!懐かしー!」と言われて、大人と子どもでは時間の速さが違うんだなーと実感した次第です。懐かしいってなんなんだ。(高)


  • ※1 徳冨蘆花著.自然と人生. ワイド版岩波文庫,2005,p.179.
  • ※2  踊り字は「おのおの」

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