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タイトル 猫の手は借りられますか〜図書館肉球譚〜

第33回 連携は人のためならず

ある町の図書館研修に講師として招かれたとき、こんな話を聞きました。その図書館には、館外との折衝が得意なスタッフがいて、オフィスであれお店であれ、ひとりで訪ねていっては、イベントへの協力や金品の寄付の話をつけてくるんだそうです。でも、他の館員からは、すこぶる評判が悪く孤立しているのですね。たとえば、「館内の基本業務を疎かにして、外へ行って好き勝手なことをしている」と陰口を叩かれるわけです。ちなみに、基本業務というのは、おそらく本の貸出し・返却、書架の整理といった仕事のことを指すのでしょう。

こういう話、他の図書館でもよく耳にします。いまどきの図書館に求められる新しいサービスの多くは、図書館外からの協力なくしてはできません。課題解決支援サービス、然り。読書バリアフリー支援、然り。だから、こんな陰口が横行する図書館は、館外からの協力を得るための交渉の大切さについて職場内での議論が足りないのでは、という話に落ち着きがちです。でも、冒頭の話を思い出しながら、ひとつ忘れられがちな要素に気がつきました。それは、批判する人たちの心に生じた感情です。

「余計なことをされて、私たちまで外に出なきゃいけなくなるのはごめんだ。」「今までは図書館の中の仕事だけで済んでいたのに、今さら外の人とかかわるなんて恐ろしい。」一言でいって、外部との接触を忌避する感情。でも図書館員が外に出ることが、こうした感情によって妨げられるとしたら、負の感情を抱いている当人にとっても実にもったいないことです。

現代日本の、特にサラリーマンといわれる人たちは、職場の外の人間関係が非常に薄いことが知られています。職場の内外を問わず、肚を割って本音で話せる人となると、本当に少ないのです。その理由はここでは詳しくは述べません(参考文献:小林祐児『早期退職時代のサバイバル術』幻冬舎)が、退職者などの孤独はすでに社会問題となっています。とうとう政府は孤独・孤立対策担当大臣というポストを設けたほどです。そんな時代に堂々と、損得抜きで職場外に交友関係を作ることができる社会教育の仕事って、本当にお得です。

図書館も、もちろん社会教育の機関です。近年の外部連携・協働を重視する流れは、図書館員の人間関係づくりにとっても追い風です。私が公務員を「卒業」してからも人間関係を楽しんでいられるのは、公務員時代の約40年間、社会教育に従事し続けて、図書館でも外とのかかわりを大事にしてきたおかげだと思います。人付き合いは苦手なのですけどね。

「書を捨てよ、町に出よう」というのは寺山修司の作品(映画・戯曲・評論集)のタイトルですが、ネコ司書のみなさんには、書を携えて町に出て人に会い言葉を交わしてみることを、仕事としても仕事以外でもオススメします。書を携える理由?本こそ、初対面の人とも仲良くなれる、話題づくりの優れたツールだから。ぜひ、お試しあれ。

挿絵
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