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タイトル 猫の手は借りられますか〜図書館肉球譚〜

第21回 人文書で妄想パワーを鍛えよう

個人であれ、集団であれ、人が成長するために欠かせないものの一つにビジョンがあります。
たとえば、人が空を飛ぶのは当たり前になっていますが、ほんの百数十年前には非常識きわまりなかったことでしょう。

挿絵
※挿絵はクリックで拡大します。

発明家たちには、もちろん科学技術の支えも必要でしたが、実際に人が飛ぶ姿をありありと具体的に思い浮かべることができなければ、命がけの挑戦もあり得なかったはず。偉大な発明でなくても、私たちが未だに実現していない何かを成し遂げるためには、どうしたってビジョンが必要となるのです。他人は、それを妄想と呼ぶかもしれませんが。

妄想パワーを鍛えるためには、お互いに安心して「こうありたい自分」や「こうあってほしい世界」のビジョンを語り合える場をつくるのが一番です。

実は、この2カ月ほど、関心を同じくする数人の仲間と一緒に、オンラインで、そんな実践をしていました。Facebookのメッセンジャーを使いましたが、LINEのグループでもメーリングリストでも、まったく同じことができるはず。

毎日、メンバーが交替で、「こうありたい」と願うビジョンを思い浮かべ(ビジョニングといいます)、書きとめて投稿し、他のメンバー(だけ)に読めるようにする。それだけですが、たった一人で続けるのは至難です。なんとか全員が期間中に4回ずつ投稿し終えて、最後の投稿を読んだときにはちょっとした達成感がありました。それから数週間。全員参加でビデオ通話による反省会を行ったところ、ビジョニングの素晴らしい効果が明らかになったのです。

「ビジョニングしていなかったら、アホな話もってくるな、で済ませたようなオファーを、<これ、来てる!>とキャッチできたんです。」

「一度思い浮かべて、言葉にしているからこそ、外からくるシグナルに気がつくことができるのかもしれませんね。」

「自分のビジョンをちょっとしたストーリーに仕立てたら、主人公になった気分でリアリティがもてました。」

いちいち頷きながら、ふと思いました。ビジョンを情景として思い浮かべ、ストーリーに仕立てる素材は本の中にある。哲学・思想、心理、宗教、歴史などの人文書にはじまって、文学や芸術、さらにはポピュラー・サイエンスの本まで、図書館でいくらでも読めるじゃないか!

これらの本は実用書の対極にある、役に立たない本と思われがちですが、人間が無から有を生み出せるのはビジョンの力。集団においてもビジョンを指し示し続けることができる人を、リーダーと呼ぶべきなのでしょう。たとえば、「誰が何と言おうと私たちは空だって飛べるんだよ」といった具合に。実際には、ときどき墜落することもあるだろうけど、それは大きな学びのきっかけでもあります。おかげで次の挑戦ではもっと飛距離を伸ばすことができるかもしれません。

最近、ビジネス、健康などの課題解決を支援するサービスにとりくむ図書館が増えてきていて、私も現役の時代にはその旗振りの一人でした。でも、図書館で創造的な活動を支援するなら、妄想力養成ワークショップとか、ビジョニングの棚づくりとか、やってみたいですね。その棚には、あなた自身のビジョンを語るパネルも忘れずに置きましょう。ぜひ、お試しあれ。

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