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タイトル 猫の手は借りられますか〜図書館肉球譚〜

第10回 野良司書は世間のスキマを知で満たす

挿絵
※挿絵はクリックで拡大します。

 「フリー・ライブラリアン(‘a free librarian’以下、’FL’)」という言葉を聞いたことがありますか?ときどき、知人にも「私、それです!」とおっしゃる方がいます。直訳すれば「自由司書」、私は「野良司書」と意訳します。ある辞典に「野良猫」即ち「飼主のない猫。宿なし猫」とあるのに倣えば、「雇用主のない司書。館なし司書」となりますね。

 昨年、私がかかわる東海ナレッジネットというコミュニティで、FLをめぐって語り合うオンライン・イベントを開催しました。題して「FL養成課程を妄想する」。

 このイベントをやるまで、私自身はFLにネガティブなイメージを持っていました。図書館という組織に属さない司書なんてナンセンスでは?でも、今は思うのです。

 「FL、いいよね!これからはFLの時代かも。」

 実際、図書館員ではないけど司書の資格や経験があり、その知識と技を世のため、人のために役立てたい、副業にも活かしたいと願っている人は少なくありません。そして、図書館には埋められない世間のスキマを満たすように、FLとして活動しているのです。以下に、実例をいくつか。

  • 自分が住んでいる地域に関するウィキペディアの記事を充実させるために、資料を探し出した。
  • 入院した病院で同室の患者に頼まれて、スマートフォンを使って情報を探したり、本を取り寄せたりした。
  • 勤め先の組織の倉庫で埃をかぶっている書類を整理し、目録をつくって、活用できるようにした。その組織の創立〇十年史の編集にも協力した。
  • 近所のカフェやショップに頼まれて、店内の棚に並べる本の選定と調達を手伝い、副業として収入を得た。

 大学や短大の司書課程では、司書という職業に就く前提で教育が行われていますが、実際に司書になるのはごく少数。そこで学ぶ学生にもFLの話をしたいと思い立ち、非常勤講師を務める大学で実行してみました。すると、ある大学では半分近い学生が授業の感想として「強く印象に残った」「司書資格を取る意味が見えてきた」とポジティブな感想を書いてくれたのです。ひとつだけ、ご紹介しましょう。

 「すでに図書館ではない民間企業への就職が決まっているが、 最後に自分の興味のあることを学びたいと思い、司書課程の授業を詰め込んだ。周りには、なんで?と言われ、自分でも迷っていたが、司書を本業とする以外の関わりの道を紹介していただき、これでいいと自信を持つことができた。」(以上、要約。)

 たとえ「館あり司書」であっても、FLに思いをはせればきっと得ることがあるはず。お試しあれ。

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