
このコラムの第45回で、「森のような図書館」として小布施町立図書館「まちとしょテラソ」を紹介しました。志賀アリカさんが館長として着任し、すばらしい図書館が甦った経緯を知るだけに、次期館長の公募でどんな方が選ばれるか気になっていました。組織の文化を丹精込めて耕し、町の人たちとのつながりを受け継いでいく。そんな繊細な仕事を担う人を、公募で本当に選ぶことができるのだろうか、と。
創造的な事業をどう継承するか、というのは多くの組織に通じる課題ですが、小布施町は次期館長にも適任の方を選んだように思えます。その人は新城勇気さん。就任が決まってから数回、オンラインでお話しする機会があり、新館長への期待が高まっています。新城さんが「聞く」ではなく「聴く」――自分の解釈をはさまず意識的に耳を傾ける姿勢を大切にし、実践してきた人だと分かったからです。「聴く」ことの定義は、『まず、ちゃんと聴く。』(櫻井将著)によります。同様に、志賀さんや私が学んでいるNVC(Non-Violent Communication)という対話的コミュニケーションの方法でも、解釈や評価を差しはさまず、まず相手を観察することが大切にされています。学び始めてまだ日の浅い私はともかく、志賀さんも聴き上手な人であることは間違いありません。
新城さんは、同書の著者が代表を務め、「聴く」ことのプロが集まる会社の設立当時からの社員でした。個人としては「読書のまにまに」(https://podcastranking.jp/1755897869)というポッドキャストで、多彩な人々と本のかかわりを聴き続けています。応募に際し、いろんな伝手をたどって、多くの町民の話を聴いた、とおっしゃったのには驚きました。私も、公募に応じて愛知県田原市の図書館長に採用されましたが、住民へのインタビューは思いもよりませんでした。
3月15日、志賀さんと新城さんのトークイベント「終わりと始まりを考える日」が開催されます。(この文章はイベント開催直前に書いています。)形としては、館長のバトンの受け渡しですが、新城さんから志賀さんへの「志賀さん個人としてはどうしたいですか?」という問いから発案されたイベントです。よく聴く人は、よく問う人でもあるのですね。私は、招かれて司会を務めることになりました。要するに聴き役です。そんな大切な場に臨んで、聴き上手のお二人のトークにどんな風に立ち合ったらいいだろうかと、ドキドキしています。同時に、その場に居合わせることができる喜びを感じている私もいます。
「聴くことは、司書資格より大事なの?」と訝しむ方がいるかもしれません。司書資格は大学や講習会で必要な科目を履修すれば取れるけど、「聴く人」になれるとは限りません。解釈の色眼鏡を外して聴く。スタッフから聴く。住民から聴く。専門家から聴く。もちろん、専門家には司書も含まれます。
「聴く」図書館員は、本コラムでたびたび取り上げている「対話」という営みにおいて、もっとも重要な資質をすでに身につけているともいえます。誰もが言いたいことを言うだけで、お互いに相手の言葉に耳を傾ける姿勢がなければ、対話は成立しないのですから。「聴く」姿勢を全身で示してくれる図書館員がいれば、図書館は、対話を核とした、さまざまな新しい試みが育まれる場となることでしょう。
あなたの次の出勤日の朝、最初に会う人の言葉を「聴く」ことで一日が始まったら、どんな気分でしょうね。ぜひ、お試しあれ。
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