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タイトル 猫の手は借りられますか〜図書館肉球譚〜

第5回 司書は長距離走者を独りにしない

 今年はオリンピックの歴史にとって節目の年になりましたね。約半世紀前にもオリンピックは大きな変化を経験しました。1974年、出場資格をアマチュア選手に限定していた五輪憲章の規定が削除されたのです。

 今もオリンピックに出場するアマチュア選手は大勢いるはずです。しかし、多くの国ではアマチュアか否かを問わず、出場者に対して情報面を含めた手厚いサポートがされているのでしょうね。

 でも、私は妄想するのです。

 アマチュアの長距離ランナーが強力なライバルと競うために、情報を集め、戦略を立て、トレーニングをする。そのランナーに寄り添い支えるのはコーチ、トレーナー、そして司書。

 私がかつて働いていた渥美半島はスポーツが盛んで、図書館もかなりの数のスポーツ関連図書や雑誌、DVDを集めていました。競技ルール、戦略・戦術、名選手・名試合、トレーニング法といった主題の本はもちろん、スポーツ医学やアスリートの食事の本、さらにはスポーツ小説や漫画まで入手に努めたものです。隣に大きな体育館があったので、いろんな種目のウェアや道着をまとった人々が立ち寄ってくれました。図書館は地域のアマチュア・スポーツを支える隠れた力になっていたのではないでしょうか。

 私自身は運動、特にチームスポーツが苦手なうえに、人一倍移り気な性格です。それでも渥美半島のある東三河は歩き、走り、登るには実に魅力的な環境でしたから、単身赴任すると同時に何か身体にいいことをしてみたいと思いました。

 そんなわけで、一人でできる運動について雑多な本を読み漁りました。中でもジョンJ.レイティの『脳を鍛えるには運動しかない!』と『GO WILD 野生の体を取り戻せ!』、クリストファー・ マクドゥーガルの『BORN TO RUN 走るために生まれた』などの知的刺激に満ち、しかも感動的なノンフィクションに出会えたのは幸いでした。

 この経験のおかげで、健康や運動について流通している膨大な情報を吟味する眼力が少しはついたような気がします。本から得た知識を元手に、実際の運動もしました。渥美半島での9年間は自分史上、最も身体を動かした時期だったと思います。退職して3年経った今は、自分史上最大の肉塊の重みに耐えかねていますけど。

挿絵
※挿絵はクリックで拡大します。

 この9年を振り返れば、私という限りなくウォーカーに近いランナーに伴走していたのは、司書としてのもう一人の私でした。でも、私以外の司書が伴走者だったら、もっと客観的な視点で情報面のいいアドバイスがもらえたかもしれません。

 「図書館と他の施設をいっしょにするとしたら何がいい?」と尋ねられると「カフェ!」と返す人が多いとか。でも、私の答えは「もちろんスポーツジム。」

 ジムと一緒になった館内にはスポーツに関する資料はもちろんトレーニング器具も置かれていて、エアロバイクやヨガマットの上で読書に耽る人もいるでしょう。そんな環境でこそ役に立つことが、きっと司書にもあるはずです。まずはあなたが通うジムやクラブで困り顔の人に声をかけてはいかがでしょう。「何か情報をお探しですか?」お試しあれ。

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