今年の3月末、コンサルティングを主ななりわいとするようになって7年が経ちました。このところ立て続けに、ケアをテーマにした本を読んでいます。たとえば次のような文章が、私の心に響きます。
「ケアとは傷つけないことである」東畑開人『雨の日の心理学』KADOKAWA
「ケアとはニーズを満たすことである」同上
「ケアとは、その他者の大切にしているものを共に大切にする営為全体のこと」近内悠太『利他・ケア・傷の倫理学』晶文社
私の仕事は図書館の開設や運営をサポートすることですから、複数の図書館で20年以上働いた経験やそこで得た知見は十分に活かせています。でも、転職の直後はこの仕事への違和感ありまくりで、他人から「コンサルタントになったんだって」といわれるたびに非難されているような、後ろめたくも居心地の悪い気持ちになりました。
多分、コンサルタントって、他人の大切にしているものにケチをつけ、相手が傷つくのも構わず「もっと大切なものがありますよ」と言いくるめる仕事、というイメージがあったからでしょう。まともなコンサルタントのみなさん、ごめんなさい。
今は、真逆の、かぎりなくケアに近いところで仕事をしている(少なくとも努めている)と思っています。「クライエントにとって大切なニーズを知り、実現する方法を探す旅に同行すること、傷つきもう歩けないというクライエントに寄り添い支えること、ときには傷が癒えるのを待ちながら…」というのが近年の私の心がけです。
たとえば、新しい図書館計画の策定をサポートするとします。普段の運営のための人員はかろうじて配置されていても、計画づくりのための増員なんてあり得ないのが、多くの自治体の実情です。担当になった職員が、未知の業務や負担増へのおそれを抱くのは当たり前ですね。サポートに際して専門的な知識やスキルを提供するのも当然のことですが、それ以上に、担当職員の気持ちやその背景にある葛藤と傷つき、さらには職場環境や組織文化を考慮することが欠かせないのは、そんな理由からです。そこで活きるのが、ケア的な視点です。
ここまで書いて、卓抜なリーダーシップ論で知られるロナルド・ハイフェッツが、課題には「技術的課題」と「適応課題」があると説いているのを思い出しました。図書館計画において図書館に関する専門知識が役立つのは、比較的明確な解決策がある「技術的課題」。計画に関わる職員の不安や戸惑いに直面し、価値観や役割意識の見直しを求められるのは「適応課題」です。後者の課題には正解がなく、本人や組織が自らの内側に向き合いながら少しずつ進むしかありません。コンサルタントにケアの視点が必要とされるのは、まさにこの「適応課題」です。前回で触れた「リミッターを外す図書館」になるためにも「適応課題」は避けて通れません。
ケアをめぐる本を読みながら「最近の自分はそんなことをよく考えている、6年前からずいぶん遠くまで来た、でも、そもそも図書館のサービスだってケア的側面があるんだよ…」と感慨にふける新年度です。
ケアし、ケアされて生きるのが人間。図書館員も例外じゃありません。あなたの近くの新人さんや、新しい業務を任された人がつらそうだったら、この文章を思い出し、「大丈夫、一人じゃないから。」と声をかけてみてください。お試しあれ。
design pondt.com テンプレート