
学校図書館の司書でよかったなあと思うのは、子どもが一人でいるときの様子をあたりまえのように見ることができることだ。毎日やってくる子もいれば、校庭が使えないときだけくる子など十人十色でおもしろい。
お天気のいい日の図書室は閑古鳥が鳴く。15分足らずの休み時間でも元気に校庭で遊んでいる声を遠くに聞きながら、数人の子どもと静かに過ごす時間は、毎度のことながら「ああ、しあわせ」と思う。
ときどきその静寂をうちやぶる事件が起きる。たとえばカメムシがやってきたとき。最近図書室にあらわれるカメムシは、茶色くて親指の第一関節分くらいの大きさだ。クサギカメムシというらしい。それがゴツンゴツンと窓ガラスとカーテンの間を飛び回っていると、子どもはすぐさま「センセイ!カメムシ、カメムシ」と知らせてくる。
できれば生き物を好きになってもらいたいので、こちらはポーカーフェイスで「虫だって天気がいいから、ここまで遊びにきてくれたんじゃない?」などと言ってみるが、小学生は「そんなこと言ってないで、早くなんとかして」と現実的な対応を求めてくる。彼らに共存という考えはないらしい。まあしょうがないか、害虫だしなあ。
図書室の平和のために、ほうきとちり取りで速やかにカメムシを捕獲し、窓から追い出して「もういないよ」と言うと、子どもは安心して読書にもどるというのがお約束の流れだ。これまでのところ、誰ひとりカメムシを退治してくれた子はいない。しかし、いつも貸し出し中で人気の本は『調べよう! 身近な害虫図鑑 ① ハエ、ゴキブリなど』(工藤美也子/著 汐文社)なのだった。この本にカメムシもしっかり紹介されているが、みんな害虫が好きなわけではなく、ただ興味があって借りているということなのか。
またあるときは、からすが大きな声で鳴いている日もある。たいていは誰も気にしないのだが、一人だけ「アー、アー」とからすに返事をする子がいる。先日もあいづち(?)をうちながら、熱心に読書に励んでいた。「この子『からすたろう』(やしまたろう/文・絵 偕成社)みたいだなあ」と思いながら見ていると、チャイムがなる寸前まで対話していた。
からすたろうは、のけものにされながらも学校に通い続けた「ちび」とよばれる少年が、6年生になってやっと理解してくれる先生に出会ったことで、将来の明るい兆しを見せてくれる感動的な絵本なのだが、こちらのからすたろうは友達と楽しそうにふざけているときもあるし、体格もよくあまり心配することもなさそうだ。とはいえ、これから先いろいろあるだろうから、どうか元気にやっていくんだよ、と勝手に心の中で応援している。
図書室は3階の北校舎の奥にあって、教室のある南校舎からは離れた場所にある。一人でやってくる間、みんなどんなことを考えているのだろう。何も考えずに来てくれてもいいし、なにかを楽しみに来てくれてもうれしい。今日は誰がくるかなあと、こちらもわくわくしながら本と一緒にいつもカウンターで待っている。(真)
design テンプレート