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タイトル 本の風

第55回 「月を見よう」

 皆既月食のために、草木も眠る丑三つ時に目覚ましをかけ、無事に見ることができた。月が少しずつ欠けていくのは神秘的で、何度見てもわくわくする。
 朝日小学生新聞の2025年9月7日の一面トップは、皆既月食について。平安時代から鎌倉時代にかけて、月食は不吉なものとされており、天皇の妻や、幕府の将軍に悪いことが起きると信じられていたそうだ。そのため、陰陽師が月食の日を予測したり、密教の僧侶にまじないをさせたり大変だったらしい。

 現代の私たちは、本や映像で月食について簡単に知ることができる。さっそく9月の学校図書館の展示コーナーは「月を見よう」に決め、本を並べた。
 最近の児童書の知識の本は、調べ学習にも使えるようにさまざまな切り口で作られており、たとえば『月を知る』(吉川真/監修 三品隆司/構成・文 岩崎書店)1冊を読めば、ちょっとした月博士になれそうだ。月の誕生から、クレーターや海の正体、月食についても、連続写真で細かく説明されている。最終章は「月への挑戦」で、月に基地を作る計画が実現しそうな日が来ている、と結ばれていたが、私が生きている間は、できれば地球人には住んでほしくないなあと思ってしまった。宇宙人がいるのは大歓迎なのだが。

 月が出てくる物語といえば、宮沢賢治の『オツベルと象』だ。過酷な労働に耐えかねて、白象がお月さまに語りかける場面がでてくる。
 中学生の時、国語の教科書で初めて読んだのだが、このときから私の一番好きな動物は象になった。働き者で、仲間思いで、気が優しくて力持ちの象。それにひきかえオツベルの野郎ときたら、憎たらしいったらありゃしない。
 白象は無事、仲間の助けでオツベルから逃げることができた。象たちに踏みつけられて、ぺちゃんこになったオツベルの結末は本当にすっきりした。正義が勝ってよかった。お月さまはちゃんと見てくれているのだ。

 最近になって、やっと宮沢賢治のおもしろさがわかるようなってきた。きっかけはマンガのおかげだ。『偽装不倫』(東村アキコ/文藝春秋)の中で、『銀河鉄道の夜』が出てきたので、原作を読み返した。ちょっと難しいけど不思議な世界で好きかもしれない、と今度は『オツベルと象 虔十公園林』(ますむらひろし/作画 宮沢賢治/原作 ミキハウス)を読んでみた。私の思っていた白象と仲間たちが描かれていた。『虔十公園林』 (けんじゅうこうえんりん)はタイトルで難しそう、と食わず嫌いで読んでいなかったが、自分の好きな話だったことがわかり、原作を構えずに読むことができた。マンガを読んでいなければ、ここまで広がらなかっただろうから、乱読でよかった。
 ますむらひろしさんの宮沢賢治本を大人買いしたので、これから原作と行ったり来たりしながら、読書の秋を楽しめそうだ。(真)

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