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タイトル 本の風

第56回 「お月さまと絵本の時間」

 見上げる夜空に浮かぶ月が殊更に美しいなぁと思うのは、やはり秋ですね。夏目漱石が英語の「I love you」を「月が綺麗ですね」と訳した、という話があるとかないとか。正確な根拠資料については見当たらないようだと、国立国会図書館のレファレンス協同データベースの中で岐阜県図書館の回答(※)が掲載されているので、ぜひ読んでみてほしい。大変多くの参考文献を知ることができる。
 とはいえ、Googleで「月が綺麗」と検索するとAIによる回答には夏目漱石のくだりが紹介される。私は冷やかしのような、いじりのような場面で使うものかと思っていたので、これを本気にする人がいたら、と笑ってしまった。

 月のおはなし。今年の中秋の名月は10月6日。「中秋の名月」とは、太陰太陽暦(旧暦)の8月15日の夜に見える月のこと。必ずしも満月にはならないらしいが、私の住む地域では流れる曇の隙間からぼんやりと覗く月を愛でることができた。
 もう一回のお月見は、太陰太陽暦(旧暦)の9月13日の夜。「十三夜」という。「栗名月」とか「豆名月」ともいうらしい。今年は11月2日。せっかくなので勤務する図書館にススキと一緒に栗を飾ってみた。ススキは道端にわさわさといくらでも生えている。栗は庭のものだといって同僚が持ってきてくれた。ご満悦で飾ったのはいいが、ススキにも栗にももれなく虫さんが付いてきたのは当然のこと。ススキに殺虫剤のスプレーを振りかけて、ポトリ、ポトリと落ちるくねくねしたものを摘まみ上げ、栗にはポットのお湯をジャージャーかけることに。なんとかお月見コーナーの出来上がり。

 「やまをけとばせ ぴょーんぴょん 
    つきをひっかけろ ぴょーんぴょん」
 これは『めっきらもっきらどおんどん』(長谷川摂子/作、ふりやなな/画、福音館書店、1990)のなわ跳びをする場面。
 主人公のかんたが友だちと遊ぼうと思って神社に来たけれど、だれもいなくてひとりで歌った滅茶苦茶の歌「めっきらもっきらどおんどん♪」(私は適当な拍子をつけて歌うように読みます)「こっちきて歌え」と声がする大きな木の根っこの穴に吸い込まれるように落ちると、着いた先にやってきたのはおばけの三人組。かんたと三人は汗だくになって遊ぶ。そのひとつがなわ跳び。長い長い縄で山を蹴とばすくらい、月を引っかけそうなくらい、高く高く飛び上がる。遊び疲れて眠った三人のそばで、ひとり心細くなったかんたが思い出したのはやっぱりお母さんのこと。かんたはお母さんの元へ帰れるかな。
 リズムよくつながる文章は耳に心地よく、ふりやななさんの絵が本当に魅力的。好きな絵本をあげろと言われたら真っ先に紹介したいし、これまでもたくさんの場面で読み聞かせをしてきた一冊。
 「めっきらもっきらどおんどん♪」って一緒に歌ってくれる子どもがいたり、お餅を食べるシーンで美味しそう、食べたいって近づいてきた子どももいたっけな。子どもの中に寛太くんって男の子がいた時もあった。まわりの子がクスクス笑っているから、絵本のかんたくんと同じなんてすごくいいね、ってお話ししたな。
 小学校で同じ年齢の子に同じ絵本を読んでも、学校やクラスなど集団によって全然雰囲気が違って面白い。静かにおとなしく聞いているようなクラスでも、ちゃんと楽しんでいることは伝わってくるし、めちゃくちゃ反応がよくて声を出して笑ったりするクラスもある。多くの子どもたちは絵本が大好きで、読み聞かせを楽しむことができる。それは保護者が熱心なこともあるし、幼稚園や保育園の先生が読んでくれていたり、図書館のおはなし会に来てくれていたりするなど、みんな経験済みなのだ。経験値に差はあるけれど、絵本を読んでもらうって楽しいなという経験があるから、私のような知らない人が読みに行ってもちゃんと受け入れてくれる。読み聞かせをしているのは私だけど、読み手の私が一番幸せな時間を過ごしているかもしれない。今度は図書館で会おうね、と言ってバイバイするのがお約束。次は何を読もうかな。(石)

(※)国立国会図書館レファレンス協同データベース
https://crd.ndl.go.jp/reference/detail?page=ref_view&id=1000160743

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