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タイトル Hidden Library,Invisible Librarian

07. とうだい

挿絵1
『とうだい』
斉藤倫 文, 
小池アミイゴ 絵
福音館書店, 2016

 皆様こんにちは。秋本番の10月、思い切り体を動かすことができる気候になり、おいしいものもたくさん出てきますね。スポーツの秋、食欲の秋、読書の秋・・・。いろんな秋があるかと思います。私は、「学び直しの秋」になりそうです。
 私の勤務する図書館では、10月に図書館システムの更新があります。本の貸出手続きや、返却された本の読み取り作業、本を調べる検索などのほか、本を注文する作業や、送っていただいたリクエストの処理作業なども行うための図書館システムです。
 蔵書点検や機器の入れ替えが終わった後、新しいシステムに切り替わり、さらに拡充されるサービス面などもあって、私たちも新しいことを学び、利用者さんに伝えていけるよう、研修していく予定です。
 最近、「リスキリング」という言葉も耳にするようになりましたが、改めて、知らないことを知る楽しみ、また、今ある知識をもっと深める楽しみを味わいたいなと思っています。皆様の秋はどんな秋でしょうか?

 わくわくするような秋も多いなか、一方では、暑い夏が終わり、吹く風が涼しくなってくると、なんだか物寂しく感じることもありませんか?
 今回は、深まる秋にピッタリな、「じっくり味わいたい絵本」を3冊ご紹介します。

 一冊目は、『とうだい』(※1)です。岬に立つ生まれたての灯台は、来る日も来る日も光を照らし、海の様子を眺めています。わたりどりの話から、世界が広く、見たことのないできごとを知り、自分がどこにも行けないという切なさを感じます。ですが、嵐の日に、自分がそこにいること、そこで光ることで誰かの役に立つことを知ります。
 小池アミイゴさんの何とも言えないやさしい色味の絵の中で、凛とそこに立っている灯台が浮き上がり、斉藤倫さんの言葉はシンプルながら、灯台に自分を重ねて、勇気をもらうことができます。
 高学年の小学生や中学生から大人まで、「自分らしさ」って何だろう、と悩む人にぜひ読んで欲しいと思いました。目立たなくても、今いる場所で自分の仕事をする灯台の姿に背中を押してもらえるのは、きっと私だけではないでしょう。

 二冊目は、『あかり』(※2)です。一冊目に紹介したのは灯台の明かりですが、この本は「ろうそく」の明かりです。岡田千晶さんの描く、表紙に描かれた温かく火がともったろうそくの姿が、あまりにも美しく輝いていて、手にとったことを思い出します。
 初めて火をつけてもらったろうそくが照らしたのは、生まれて間もない赤ちゃんと家族。赤ちゃんが成長し、少女となり、大人の女性となっていく姿に反して、小さくなっていくろうそくの姿を切り出す林木林さんのストーリーは、とても読みごたえがあります。

 三冊目は、『ありがとう』(※3)です。8月に紹介した『せんそうしない』(※4)と同じコンビによって描かれた絵本です。
 江頭路子さんの描く少女の姿は、とてもやさしいタッチなのに、動きを感じます。表紙の絵はずっと見ていたくなるくらい大好きな絵です。
 谷川俊太郎さんの詩はたくさん名作がありますが、この「ありがとう」の詩は一番好きになりました。「ありがとう」は「有難い」から来ています。当たり前ではなく、今この一瞬がありがたいことだと感謝しながら、自分の存在を感じられます。

 私自身、幼いころから、悩みを誰かに伝えることができず、かといって自分で解決することもできず、たくさんの本を読み、誰かの言葉に勇気をもらってきました。大人になっても、親になっても、いまだ頭を抱えたくなるほど、悩み、苦しむことも多くあります。そんな時、少しでも心の重さを軽くできるような本や言葉に出会ってほしいなと思っています。「生きていること」は当たり前じゃない、ありがたいことです。そして、今、このエッセイを読んでくれたあなたに最大の「ありがとう」を送ります。


  • ※1 『とうだい』,
      斉藤倫 文, 小池アミイゴ 絵, 福音館書店,2016
  • ※2 『あかり』,
      林木林 文, 岡田千晶 絵, 光村教育図書, 2014
  • ※3 『ありがとう』,
      谷川俊太郎 詩,江頭路子 絵, 講談社, 2021
  • ※4 『せんそうしない』,
      谷川俊太郎 文,江頭路子 絵, 講談社, 2015

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