back number

連載  雨のち晴れ、ときどき絵本

38 はなさかじい

さくらがさくと 表紙
『はなさかじい』
松谷みよ子 著・文
瀬川康男 イラスト
フレーベル館,2002

 皆様こんにちは。春真っ盛り。ほわほわとした「ザ・春」の陽気が続くようになってきました。言葉のイメージって、感じる人それぞれだと思いますが、私の中では「ほわほわ」がしっくりいく感じです。
 幸いにして花粉症の影響を受けずに、春を満喫しております。前回のエッセイで、桜の絵本を取り上げましたが、リアルでも、近所のあちらこちらで、いろんな種類の桜と菜の花が目を楽しませてくれておりました。北海道など、地域によっては、5月が見ごろだそうです。桜はやはり、日本人にとってなんとなく気分が上がるお花の一つであるように思えます。

 さて、前回、桜の絵本をいろいろと読み漁っていた中で、ふと頭に浮かんだ昔話が思い出されました。「枯れ木に花を咲かせましょう」やら「ここ掘れワンワン!」やら、キーワードが印象的な「はなさかじい」です。
 皆さん、「はなさかじい」のお話、覚えていらっしゃいますか?優しいおじいさんと意地悪なおじいさんが出てきた、犬が出てきたな、枯れ木に灰をまいたら、花が咲いたんだった、というエピソードは記憶されているかもしれません。
 まずは、全体的なストーリーをおさらいしたいと思います。
 登場するのは、おじいさんとおばあさん(貧乏、正直者、まめな、いい)、その隣に住むおじいさんとおばあさん(意地悪、怠け者)、犬、うす、灰、お殿様といったところでしょうか。
 おじいさん(おばあさん)が川で拾ってくる犬がお金や宝物を見つけて、暮らしが楽になります。それを見ていた隣のおじいさんとおばあさんはその犬を借りますが、出てくるのは虫や汚いものばかり。怒って犬を殺して埋めてしまいます。
 悲しんだおじいさんとおばあさんは、犬が埋葬されたところに生えた木を使ってうすをつくり、餅をつくと、これまた、大判小判やら食べ物やらが出てきます。また、隣のおじいさんとおばあさんはうすを借りて帰りますが、出てくるのは汚いものばかり。頭にきてうすを燃やしてしまいます。
 仕方なく、おじいさんとおばあさんは、うすが燃えた灰を集めると、風が吹き、木々があっという間に花ざかりになったところに、ちょうどお殿様が通りかかり、ご褒美をもらいます。それを見ていた隣のおじいさんはお殿様がくるころに待ち構えて、灰をまきますが、花が咲くどころか、お殿様たちの目に入って、ひどくぶたれた、というお話です。
 昔話絵本は、長く愛されているだけあって、いろんな出版社から、いろんな方が再話し、絵を描き、出版されています。そんな中で何冊かご紹介しつつ、それぞれの違いを味わいながら、一緒に「はなさかじい」の世界に飛び込んでみましょう!

 1冊目は、『はなさかじい』(フレーベル館)(※1)です。この絵本は「日本むかし話」シリーズの1巻目にあたります。
 この絵本では、まめまめしく働くじいさんとばあさん、また、隣に住む、怠け者のぶつくさじいさんとばあさんが登場します。川にしかけたかごを取りに行くのはおじいさん。まめなじいのかごには魚が、ぶつくさじいのかごには木の根っこが入っていますが、まめなじいが根っこを持ち帰ります。根っこから生まれた犬は白く、ここほれワンワンを言います。まいた灰は、梅の木には梅を、桜の木には桜を、桃の木には桃を咲かせます。
 この絵本の絵を描かれたのは瀬川康男さんです。瀬川さんは、絵本好きならば誰もが知っている作家さんの一人です。柔らかな色味ながら、表情豊かな登場人物が描かれ、どの絵も生き生きとしています。
 文を書かれたのは松谷みよ子さんです。子どもの本といえばお名前が思い浮かぶお一人ではないでしょうか。この絵本は、読み聞かせにも使われるとは思いますが、お子さんが一人で昔話を読むのにちょうどよい文章量で、すべてかなで書かれています。松谷さんは、ほかの絵本でも「はなさかじい」を出されています。違った文体、違ったエピソードで書かれていますので、いろいろ比べてみていただけると、さらに楽しめると思います!

 2冊目は、『はなさかじい』(ポプラ社)(※2)です。この絵本は、「むかしむかし絵本」シリーズの15巻目にあたります。
 この絵本では、じいさまとばあさまという表現のみで、性格的なものはストーリーの中で描かれるのみです。じいさまばあさまが子どもをもらいに行く途中で、白い犬を拾うことからスタートします。灰をまいた後の花も、細かくは語られず、見事な花ざかりが描かれているだけです。
 文を手掛けているのは吉沢和夫さんで、巻末に、この絵本の再話にあたっての思いが語られています。上段でほかの絵本との違いを書きましたが、まさにこの点が、吉沢さんの狙いだということがわかります。
 そして、私、この絵本に記憶があるんです。きっと私が小さいころ、母に読んでもらっていた昔話絵本のうちの1冊だったんじゃないかなあと思います。さくらいまことさんによる表紙に描かれた優しそうなおじいさんと背景の美しい花が、何十年も前の記憶に残っています。きらびやかな絵本が多い昨今ですが、こういうじっくり味わえる絵本もぜひ手に取っていただけたらうれしいです。

 3冊目は、『てのひらむかしばなし はなさかじい』(岩波書店)(※3)です。この絵本は「てのひらむかしばなし」シリーズの1冊です。
 登場人物は、かみのじさまばさま、しものじさまばさま、と描かれます。川にしかけた、しものじさまのどっこにかかった白い犬を、かみのじさまのに入れることで、白い犬がかみのじさまの家に来ます。この絵本では、ここほれワンワンではなく、イノシシやウサギを呼びよせる狩りを担う役として描かれます。また、作ったうすはひきうすです。集めた灰は風で飛ばされて花が咲くのではなく、なんと!かみのじさまのおならで飛ばされて桜の花を咲かせます。
 ユニークな展開の話を手掛けたのは、長谷川摂子さんです。児童文学でもたくさんの出版がある長谷川さんが、宮城県に伝わる昔話をもとに再話されました。また、このユニークなお話が伊藤秀男さんのダイナミックな絵によって、さらに彩られ楽しく味わえる絵本です。

 いやー、昔話は奥が深いですね。同じお話でもいろんな地域に伝わるなかで、バリエーションがたくさんあります。このほかにも、犬は白犬ではないとか、小箱に入って流れてくるとか、おばあさんが拾ってくるとか、犬のお墓に植えた木が松だったり、柳だったり。細かな設定が本当にいろいろあるんですよね。
 いろんな昔話絵本が描かれていますが、お子さんたちが実際に昔話に触れる機会は減っているように感じます。カラフルで楽しい絵本が多く出版され、手に取られる一方で、昔話絵本は出版自体が少なくなっています。ですが、私のように、子どものころ読んでもらった思い出は、長く思い出に残ります。日本で語りつがれてきた昔話の世界を、ぜひ絵本で味わっていただけたらと思います。


  • ※1 『はなさかじい』,松谷みよ子 著・文,瀬川康男 イラスト,
    フレーベル館,2002
  • ※2 『はなさかじい』,吉沢和夫 文,桜井誠 絵,ポプラ社,1967
  • ※3 『はなさかじい』,長谷川摂子 文,伊藤秀男 絵,岩波書店,2008

▲このページのはじめへ

Copyright (C) yukensha All Rights Reserved.

design pondt.com テンプレート