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連載エッセイ うごく・はこぶ 石川敬史

39 コロナ禍の「移動」再発見

 2020年は新型コロナウイルスの感染拡大――新しい生活様式,3密,ソーシャルディスタンス,緊急事態宣言,クラスター,ロックダウン,ポストコロナ,マスク会食――さまざまな新しいコトバが飛び交う中で,以前から地域で走り続けていた「移動」する活動が再発見される傾向にあった。このうち,コロナ禍における移動図書館の活動については,各地の公立図書館の活動を辿りながら,すでに別稿にてまとめたことがある。

 では,その他のさまざまな「移動」する活動,いわゆる「はたらく自動車」たちはコロナ禍においてどのように地域を走っていたのであろうか。新聞にて報じられた活動を辿っていきたい。

「おうちでランチなら移動販売車は運ぶ」『朝日新聞』(2020.4.22)

 これまでにオフィス街へ出向いて昼食を販売していた移動販売車。緊急事態宣言にて在宅勤務が続いているため,移動販売車はオフィス街から住宅地へ。同記事では,高層マンションの近くに出店したフードトラックの様子が取材されている。

「ヨーカ堂,移動スーパー」『日本経済新聞』(2020.4.28)

 東京都八王子市のイトーヨーカドー南大沢店は,(拙稿第4回でご紹介した)「とくし丸」の軽トラックに食料品など400品目を積載し,自宅を直接訪問する方式にて巡回・販売を開始した。同記事には,外出の自粛などのコロナ禍において,「とくし丸」の販売が全国的に伸びていることが報告されている。

「『移動銀行』郊外で活躍」『日本経済新聞』(2020.5.20)

 岡山県総社市の吉備信用金庫は,市内にある出張所2カ所に移動銀行車を定期的に配置していくという。同金庫は2018年7月の西日本豪雨を機に移動銀行車を導入。交通機関を利用せずに近隣の同金庫(移動銀行車)を利用できるため,コロナの感染防止に役立てることができるという。同記事において,移動店舗を販売するオリックス自動車によると,こうした自動車の導入が増加していると報じている。

「移動案内車 見どころやルート紹介」『朝日新聞』(2020.8.24)

 山梨県都留市が中古の軽自動車を改造して移動観光案内車の運用を開始したという。軽自動車の荷台部分に木製の案内カウンターや商品展示台が装備され,車外には大きなパラソルも取り付けることができる。この移動案内車は都留市の観光振興協公社が運用。人の多いところに出向いていく予定という。

「走る『移動美容車』高齢者へ」『朝日新聞』(2020.9.20)

 ヘアカラー専門店を経営する(株)NC colorはコロナの感染拡大を背景に,4トントラックを改装した「移動美容車」を導入。高齢者施設などへ美容師を派遣するサービスを開始した。緊急事態宣言により各地の店舗が苦境に立たされ,こちらから出向いていくことを考えたという。同記事には,定期的に来てほしいという依頼も増えていることを報じている。

「キャンピングカー コロナ禍でも加速」『朝日新聞』(2020.10.23)

 いわゆる「3密」を避けるための仕事場,さらにはテレワークの拠点としてキャンピングカーへの注目が集まっているという。エンジンを切っても冷暖房が動き,Wi-Fi環境も装備。仕事場以外にも商談スペースとして活用できるという。「オフィスカー」の価格は約800万円。今後もこうした「オフィスカー」としての活用を希望する声が増えていくという。

「メガネスーパー 新店は大型車両」『日本経済新聞』(2020.11.2)

 「メガネスーパー」を運営する(株)ビジョナリーホールディングスは,新規出店を移動店舗中心に切り替えていくという。2021年度から毎年トラック3台,バン30‐40台を導入(2023年末までに110台体制へ)。きっかけはコロナ禍。不採算店の整理とともにコロナ禍での客足の急減が重なったという。すでに2020年1月から試験運用した移動店舗にて実績がある。週3日ほど稼働すれば通常店舗なみの営業利益を稼げると報じている。

「子どもの遊び場 出張車」『読売新聞』(2020.11.13)

 岡山県真庭市のNPO法人真庭あぐりガーデンプロジェクトが「プレイバス」導入のためにワゴン車を購入。コロナ禍の影響もあり,1か所に多くの人が集まることが困難となったため,公園や公民館などに出向き,子どもたちに創作などを楽しんでもらうという。車の名称は「てもて号」。今後,小学生らに車体の絵やデザインを描いてもらうという。

 新聞記事の一部を辿るだけでも,コロナ禍において「移動」する活動(「はたらく自動車」)の可能性を痛感する。共通していることは,固定された施設内で人を待つ「姿勢」ではなく,人のいる場所へ一歩でも進んでいく「意志」であろうか。その時々の状況に応じて「移動」が可能であるという柔軟性を有した機動力が伴っている。いわゆる密を避けることができる「はたらく自動車」の可能性――これからもさまざまに創造ができよう。

 他方で,新聞記事を辿りながら気がついたことがある。(拙稿第3回でも触れたが)「はたらく自動車」を運営する側,こうした活動を提供する側,サービスを行う側の視点が中心になっていることである。地域で生活する側,地域で受容する側,利用する側の目線で「はたらく自動車」の活動は捉えられているであろうか。地域住民とともに,「はたらく自動車」のあり方を考え,参画や協働というプロセスから運営方法を検討しているであろうか。こうした動きに行政はどのように関わればよいのであろうか。「はたらく自動車」には,「意志」をともに育み,多くの人々との「学びあい」の可能性も秘めているといえよう。

<参考資料>
  • 石川敬史「移動図書館の『轍』」『図書館車の窓』118,2020.7,p.8.
  • 石川敬史「本を届ける知恵と工夫:移動図書館(自動車文庫)を中心に」『としょかん』153,2020.5,p.9.

(2020年12月)

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