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連載エッセイ うごく・はこぶ 石川敬史

32 しまなみ海道を走る移動図書館

今治市立中央図書館の移動巡回文庫が参りました。図書利用カードをお持ちのうえ,お越しください。

 3月下旬。日差しもあり,風はほとんど感じることなく暖かい。午前10時30分すぎであるが,今日はとても心地よい。移動図書館が到着すると,3~4人ほどのご高齢のみなさんがゆっくりとした足どりでこちらへやって来る。高齢者施設内であるため,数人の施設スタッフの方々も一緒だ。

おはようございます。本の返却ですね。

 気がつくと4~5人の方々が書架を眺めている。いつも「来館」される常連のみなさんとのこと。青い空の下,自動車を囲んで話し声も広がる。
 約2,000冊を積載する今治市立図書館の移動図書館「ぶっくる」。書架は,車内と車外の左右両面に装備されている。外書架・右側には,歴史・社会・健康・料理などの一般書や文庫本などが並ぶ。一方,外書架の左側は児童書が中心だ。車内の書架も同様に,右側には小説類が,左側には絵本を中心に紙芝居や児童書が並んでいる。

また次年度もよろしくお願いします。

 今日が2018年度最後の巡回である。同館サブチーフの児玉さんは気さくに高齢者施設のスタッフと挨拶を交わし,移動図書館に乗り込む。いつもの生活の中に移動図書館が浸透している。

次も同じ大三島ですが,再び山を越えて上浦支所に行きます。同じ1つの島の中でも大きな山に囲まれています。

 実は今日の巡回ルート・・・・・・瀬戸内海に浮かぶ島々を巡回する「島嶼部」のコースである。今日はこの大三島のほかに,伯方島,大島へと巡回する。これらの島々は「しまなみ海道」(西瀬戸自動車道)にて結ばれている。愛媛県今治市と広島県尾道市とを結ぶ全長約60kmの道路は1999年5月に全線開通,7本の大きな橋にも特徴がある。

この橋は自転車でも通行できますよ。まさに絶景です。

 今治市を出発した移動図書館は,「しまなみ海道」に入るとまず来島海峡大橋を渡る。長く大きな橋を渡る移動図書館の姿はとても小さい。橋の上から周囲を見渡すと,緑色の島々が海にふんわりと浮かんでいるような広大な景色である。まるで時計の針が止まっているような感覚である。

かつて,この橋ができる前は,伯方島がこれらの島の中心でもありました。あの有名な「伯方の塩」の発祥の地です。伯方支所は,島嶼部コースの中でも一番利用がありますよ。

 同行してくださった海田館長が,瀬戸内海に浮かぶ島々の地誌を語りかけてくれる。大きな橋を渡り,高速道路を走り,離島へと巡回する移動図書館・・・・・・,日本全国探しても,ここだけであろう。今日の巡回は,午前中が大三島の高齢者施設と上浦支所,そして午後が伯方支所(伯方島),宮窪支所(大島),吉海支所(大島)と続く。

こんにちは~。

 移動図書館は上浦支所を経て,伯方支所に到着した。「開館」の準備をしていると,高齢の男性や小さな子どもを連れたお母さんがやってきた。しばらくすると,高齢の女性,若いお母さんたちも集まってくる。多くのみなさんは自動車で「来館」する。伯方支所では7~8人ほどの利用があったであろうか。停車時間の40分が短く感じられる。

いつもの常連のみなさんですよ。でも今日は少なかったですね。あと2~3人は来ると思うのですが・・・。いつも来ていますので。

 運転手の月原さんは,移動図書館を担当して10年以上のベテランである。この島嶼部コースも含めて7コース全ての巡回先で,どのような方が来館するのかを熟知している。

とにかく雨の日は大変です。風が強い日は雨が車内に吹き込んできますので。

 雨の日は移動図書館に積載している傘やタオルが活躍する。本を収納するコンテナには本が雨に濡れない工夫もみられる。まさにこれまでの移動図書館経験に裏打ちされたワザである。

岡村島の関前へも行きますが,船で1時間半ほどかかりますね。

 離島への巡回は「しまなみ海道」を渡る島嶼部コース以外に,定期航路の船に移動図書館を載せて渡るルートもあるという。波が高い日は巡回中止である。さらには船が小さいため,積載する自動車が多い場合には,移動図書館が乗り込めない日もあったという。

中に入っていいんですか?

 大島の宮窪支所に到着し,数名の常連の方々の利用が終わりしばらくすると,併設する公民館から低学年と思われる小学生5人が走ってきた。どうやら偶然にも移動図書館を見かけたらしい。急に移動図書館が賑やかになった。絵本,野球の本,料理の本・・・・・・思い思いに本を手に取り,ページをめくる。書架に並べられた本を選びながら,児玉さん,月原さんと子どもたちとの声が響き渡る。

そろそろ出発するよ~。
えっ,次,絶対に来るね!

 ここでも40分の停車時間はあっという間であった。次回の「来館」を約束して,子どもたちは公民館へと戻って行った。

ここ2年間は移動図書館の貸出,利用は増えているんですよ。

 海田さんのコトバから,今治の移動図書館への期待と可能性が膨らむ。やや古い自動車ではあるものの,貸出や返却,利用者登録などは,数年前にオンラインで中央図書館と結ばれたため,帰館後の細々とした作業は省力化されたという。

移動図書館の担当は,中央図書館スタッフのローテーションとなっています。

 地域で生活し地域の文化を丸ごと理解する図書館スタッフが移動図書館の巡回を積み重ね,信頼が育まれていく。地域を愛する住民の足下へ図書館をしっかりと持続的に届けることができるのは,まさに図書館に勤務するスタッフの自負と地域に対する温かい思いがあるからこそであろう。

<謝辞>

 移動図書館「ぶっくる」の見学に快くご対応いただきました今治市立図書館・館長の海田良二様をはじめ,同館の皆様には数々のご配慮をいただきました。また,株式会社図書館流通センターサポート事業推進室の清水伸好様にもお力をいただきました。改めて深く感謝申し上げます。

<参考資料>

(2019年5月)

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