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連載エッセイ うごく・はこぶ 石川敬史

17 移動水族館という動く「教室」

 朝の8時。トラックのエンジン音がしだいに大きくなってきた。ここは福島県の玉川村立第一小学校である。11月上旬,朝晩冷え込む季節であるが,子どもたちは元気よく校庭を走り回っている。

 水色の大きな大きなトラックは,ゆっくりと体育館前に到着する。到着すると,トラック後部コンテナの両サイドが,まるで鳥の羽のように大胆に開く。このウィングボディのトラックは,日野自動車の5代目レンジャー(レンジャープロ)である。トラック後部へ乗り込むためのハシゴや柵などが設営されてゆくと,大きな空間が広がる。校庭から教室へ戻る子どもたち,そして先生方も立ち止まって,設営の様子をじっと見つめている。

 このトラック,ふくしま海洋科学館(愛称:アクアマリンふくしま)の移動水族館専用車両(アクアラバン)である。総重量はなんと14,000kg。3つの水槽を積載している。このうち2つは「タッチプール」で,生き物に直接触れることができる浅い水槽である。ヒトデ,ナマコ,ウニのほか,イシダイ,メジナ,ネコザメ,トラザメ,イセエビなどが水槽に潜んでいる。もう一つの水槽は深く,「世界最大のカニ タカアシガニ」という大きな掲示がある。この水槽は,上部から箱メガネでカニを観察できる。もちろん,水槽側面からも水中のカニをみることができる。これらいずれの水槽にも循環装置が動き続けている。停車中も移動中も循環装置は動いているという。

 移動水族館はこれだけではない。すぐ隣の体育館でも,水族館スタッフが設営を進めている。体育館内には,「ハンズオンコーナー」として,マンボウ,ヒラメ,アオザメ,カブトガニなど約25種類もの剥製が机に並んでいる。もうひとつ別のコーナーがある。体育で使用するマットが3枚,アザラシの剥製も机に置かれている。ここは,水族館スタッフによる「レクチャーコーナー」である。

 およそ20分ほどであろうか,水族館スタッフ4名がチームワークであっという間に設営を終える。すると,すぐににぎやかな声が聞こえてきた。1年生中心と思われる低学年3クラスが集まってきた。3クラスはそれぞれ,移動水族館車の「タッチプール」,体育館内の「ハンズオンコーナー」,「レクチャーコーナー」を15分交代で体験する。およそ45分ですべてのコーナーを体験できることになる。

 先ほどの3クラスが一巡してしばらくすると,別の子どもたちがやってきた。今度は3年生のクラスも混じっているであろうか。同じように15分交代で各コーナーを体験する。今回の移動水族館では,このように,同校の1年生から4年生を対象に,一巡45分のセットが3回転実施された。

「今回,念願かなって,初めての移動水族館です。」

 1年生の担任の先生であろうか,先生のコトバには子どもたちの気持ちがそのまま表現されていた。子どもたちの期待は,水族館スタッフが投げかける数々のコトバから,さらにふくらみ,生き物への魅力に圧倒されていく。

「生き物は優しく触ってください。水の中で呼吸します!」
「ウニの口はどこかわかる人いますか~?」
「じゃあ,ウニの足は?」
「ヒトデの口と足をみつけてくださ~い!」

 ここはトラックの「タッチプール」である。「うわ~」,「すげ~」,「でけ~」と大声で叫ぶ子どもたちであるが,生き物を触りながら,気づきや発見が育まれていく。

「さっきのタッチプール,どうだった?」
「剥製って,実際の生き物からできているんだよ!」
「みんな,剥製を触って,すごかったこと教えて?」
「サメの口と人間の口,何が違うかな?」

 ここは「ハンズオンコーナー」。「ツルツルしている!」,「こっちはザラザラしている!」,「何これ~!」,「歯がすご~い!」と,一つひとつ剥製を触る子どもたちの眼が輝く。

「さっきみんなが触った剥製,何がすごかった?」
「アクアマリンふくしまに,獣医さんは何人いると思いますか?」
「アザラシはどのようにお薬を飲むと思いますか?」
「生き物のカードを肉食と草食とに分けてください。」

 ここは「レクチャーコーナー」。子どもたちの目は真剣である。生き物の世界に引き込まれていく。

 こうした子どもたちの気づきを引き出す会話だけではない。始めと終わりの挨拶,生き物や剥製を触る約束事,騒ぐ子どもへの注意,子どもたちへの呼びかけなど,コトバの一つひとつが的確である。実は,水族館スタッフ4名のうち,1名は飼育担当スタッフ,そして1名は元小学校教員,2名は小学校教員(福島県の教員派遣)であったのだ。教員の視角から,アクアマリンふくしまの環境教育普及活動と県内の学校教育との連携を図り,学習指導要領を踏まえた学習プログラムを組み立てている。

「飼育スタッフと小学校教員とをつなぐ役割があります。」

 移動水族館は,流行を後追いするようなサービスでなく,単に生き物を鑑賞する場でもない。移動水族館は子どもたちや小学校教員の気づきと発見を引き出し,育んでいる。まさに動く「教室」である。

 命の教育
 海を通して「人と地球の未来」を考える

 移動水族館を担当する部署名と,アクアマリンふくしまの基本理念である。これらのコトバの哲学を小学校に運んでいるのが移動水族館であった。

<謝辞>

 アクアマリンふくしまの移動水族館専用車両(アクアラバン)の見学にあたり,命の教育グループ・指導主事の星克彦様はじめ,スタッフの皆様,福島県・玉川村立第一小学校の皆様よりご配慮をいただきました。心より御礼申し上げます。

<参考資料>

(2017年12月)

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