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連載エッセイ ROCK司書のセンチメンタル・ライブラリー 若園義彦

第15回 <地図を広げてまだ見ぬ場所へ>

「地図はどこにありますか?」というのは図書館でよく受ける質問のひとつだ。この質問は嬉しい。「今、ここで、実際に、役に立つ」情報が図書館にある、ということを知ってもらえている、と実感するからだ。「図書館→本(=小説)→役に立たない→読まない→行かない」という方もいらっしゃるだろうと考えると、図書館には「役に立つ」情報がある、ということはどれだけ強調してもし過ぎということはないだろう、と思う。

 さて、どんな地図をご要望でしょうねえ、などと聞いたり推測したりしながら地図のコーナーをご案内。クルマの移動なら道路地図が便利。登山に行くなら地形図。「ビジネス」で使う方は住宅地図が多いような。先祖がどんなところに住んでいたか知りたい?旧版地図ですかね。用途によって様々な地図がある。
 その様々な地図、使い方に習熟すると、さらにいろいろなことを同じ地図から読み解くことができる。地図のリテラシー「地図感覚」を身につけようというのが『「地図感覚」から都市を読み解く』(今和泉隆行 晶文社 2019)。地図からその都市の歴史や生活感まで読めるというのが興味深い。地図をさらに「役に立つ」ようにするための1冊だ。

 しかし地図はただ単に「役に立つ」だけのものではない。模様や記号をぼんやり眺めて妄想に耽るのもいいし、並んだ地名を読んでいくだけでも面白い。辞書(これもまた「役に立つ」ものの代表格だ)を読むのが好き、という人がいるように、地図を読むのが好き、という人もいる。楽しみ方は人それぞれだ。そしてそこで得た知識や情報は、もしかしたらいつかどこかで使えるものになるかもしれない。「役に立つ」と「いつか役に立つ」は紙一重なのだ。

挿絵

 ただ、地図に描かれたものがすべて「正しい」かというとそうでもない、というところが味わい深い。アトランティスが描かれた地図、カリフォルニア、朝鮮半島が島として描かれた地図もあるし、最近では、正式な海図にも掲載されていた、サンディ島の非存在が2012年に確認されたという(『世界をまどわせた地図』エドワード・ブルック=ヒッチング 日経ナショナルジオグラフィック社 2017)。すべての地図は完成への途上にあるのではないか、と思わせる。

 何かを探している人にはすべての地図が宝の地図になる。宝を求めてまだ見ぬ場所へ向かうのは、地図を広げてからにしても遅くない。

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